エリザベート(エッセイ)

私のチケット争奪戦は今のところ全敗で、いつも通り今回も月組「エリザベート」(2018年)は見られませんでした。
なので、とりあえず今回はエリザベート考察です。

エリザベートはよく旅をする。
旅は楽しいけれど、やはり逃避であることは否めない。
旅先で自分が生まれ変わったりはしないものだし、戻ってきても、旅に出る前の現実が再開されるだけなのだ。
さらに言うと、旅の間は現実問題が停滞するわけだから、解決は遠のくばかり。

あんなに美しくて、しかもハンサムでお金持ちの権力者の妻として、自らも王妃の座を手に入れた。それなのに、逃避を繰り返すほど、その人生は辛いものだったのだろうか。

旅行ばかりして、現実逃避ばかりする彼女を思うと、もしかしたら私たちとそう変わらない、普通の人だったのではないかと思う。例えば、ゾフィーなどと比べても、ずっと素朴で単純な、共感を覚えやすい人物だったのではないだろうか。

そのドラマティックな人生を思うと、こんなのは信じられないことだ。でも、彼女もただ誰かに愛されたいだけの、普通の人だったのかも知れない。

そんな、普通の女性の一生を追いかける。
だから、このミュージカルは面白いのではないか。

普通の人の実際の人生は、エリザベートのものほど、ドラマティックではない。
けれど、その心の動きは、地味な人生とは裏腹に、結構ドラマティックなものだ。
私たちは、このミュージカルに、自分たちのドラマティックな内面を見出しているのかも知れない。

この物語は、唯一自分を愛してくれた”死”の存在を受け入れられず、誰かに愛されたくて苦しみ続けた彼女の物語でもある。それは、自らの運命をなかなか受け入れることの出来ない人にも励ましを与える。

どんな人でも、人生にはドラマがあり、見過ごされがちな激しい感情があり、そして運命がある。自分自身ではそれをリアルに感じていても、他人からはなかなか認められないものだ。
このミュージカルは、そんな自分だけのリアルを、肯定してくれるのだ。

おしまい